大判例

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東京地方裁判所 平成元年(特わ)629号 判決 1989年9月13日

本店所在地

東京都渋谷区神宮前四丁目三一番一一号

三晃商事株式会社

(右代表者代表取締役 河野正曻)

本籍

東京都渋谷区西原一丁目四九番

住居

東京都新宿区西落合一丁目二六番一六

マンションサンコー二〇七号

会社役員

河野正曻

昭和一九年一一月一九日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官渡辺咲子出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人三晃商事株式会社を罰金一五〇〇万円に、被告人河野正曻を懲役一年及び罰金一五〇〇万円に処する。

被告人河野正曻に対し、未決勾留日数中二〇日を右懲役刑に算入する。

被告人河野正曻においてその罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人三晃商事株式会社(以下、被告会社という。)は、東京都渋谷区神宮前四丁目三一番一一号に本店を置き、不動産の売買及びその仲介等を目的とする資本金三〇〇〇万円の株式会社であり、被告人河野正曻(以下、被告人という。)は、昭和六二年二月二七月までは被告会社の実質的経営者として、同月二八日からは被告会社の代表取締役として、被告会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、受取利息、有価証券売却益を除外し、架空支払手数料を計上し、あるいは売上の一部又は利益分配金収入を除外したり、架空雑損失を計上する等の方法により、所得金額及び課税土地譲渡利益金額を秘匿した上

第一  昭和五八年四月一日から昭和五九年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が七一四三万六七一二円、課税土地譲渡利益金額が一二八三万六〇〇〇円あった(別紙1修正損益計算書及び別紙2脱税額計算書参照)にもかかわらず、昭和五九年五月三一日、東京都渋谷区宇田川町一番三号所在の所轄渋谷税務署において、同税務署長に対し、欠損金額が六〇万一七一四円 課税土地譲渡利益金額が一六〇万円であり、これに対する法人税額が二九万三九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成元年押第五七一号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額三一五八万四二〇〇円と右申告税額との差額三一二九万〇三〇〇円(別紙2脱税額計算書参照)を免れ

第二  昭和五九年四月一日から昭和六〇年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が六〇八九万一七八九円、課税土地譲渡利益金額が六七二六万一〇〇〇円あった(別紙3修正損益計算書及び別紙4脱税額計算書参照)にもかかわらず、昭和六〇年四月二〇日、前記渋谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一八万九四九七円、課税土地譲渡利益金額が零であり、これに対する法人税額が四万七一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成元年押第五七一号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額三八八二万二五〇〇円と右申告税額との差額三八七七万五四〇〇円(別紙4脱税額計算書参照)を免れ

第三  昭和六〇年四月一日から昭和六一年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が八六〇五万九五三五円、課税土地譲渡利益金額が四七一五万二〇〇〇円あった(別紙5修正損益計算書及び別紙6脱税額計算書参照)にもかかわらず、昭和六一年五月三一日、前記渋谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が五三七万二六七九円、課税土地譲渡利益金額が零であり、これに対する法人税額が八八万八九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成元年押第五七一号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額四四九三万三五〇〇円と右申告税額との差額四四〇四万四六〇〇円(別紙6脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する平成元年四月二〇日付、同月二七日付、同年五月八日付(検察官証拠請求番号乙11のもの、以下、単に乙11と略記する。乙15)、同月九日付(乙14、乙16、乙18)供述調書

一  鈴木英利子の検察官に対する平成元年四月二五日付、同月二七日付、同年五月八日供述調書

一  検察事務官作成の期首棚卸高、支払手数料(検察官証拠請求番号甲6のもの、以下、単に甲6と略記する。)期末棚卸高、受取利息、有価証券売却益、課税土地譲渡利益金額(甲52)の捜査報告書

一  大蔵事務官作成の検査てん末書抄本三通

一  大蔵事務官作成の支払利息割引料の査察官報告書

一  登記官作成の登記簿謄本

判示第一、二の事実につき

一  検察事務官作成の総売上高、地代家賃、支払手数料(甲7)支払利息割引料の捜査報告書

判示第一、三の事実につき

一  検察事務官作成の雑損失、課税土地譲渡利益金額(甲42)の捜査報告書

判示第一の事実につき

一  被告人の検察官に対する平成元年四月二四日付、同年五月七日付(乙4、乙10)供述調書

一  鈴木英利子の検察官に対する平成元年四月二〇日付(甲19)、同年五月六日付供述調書

一  検察事務官作成のその他原価、新宿区新宿1-23-1物件の売上計上時期(甲40)、練馬区中村北物件の解約金の経理処理(甲41)、昭和五八年三月期の売上高の経理処理(甲47)の捜査報告書

一  大蔵事務官作成の新宿区新宿1-23-1物件の売上計上時期の査察官報告書

一  押収してある昭和五九年度分法人税確定申告書一袋(平成元年第五七一号の1)

判示第二、三の事実につき

一  小山田紀一の検察官に対する平成元年五月五日付供述調書抄本

一  検察事務官作成の受取手数料、総仕入高、事業税認定損(甲51)の捜査報告書

判示第二の事実につき

一  被告人の検察官に対する平成元年五月五日付、同月八日付(乙6)供述調書

一  鈴木英利子の検察官に対する平成元年四月二〇日付(甲19)、同年五月四日付供述調書

一  戸嶋一彦の検察官に対する供述調書四通

一  検察官弁護人作成の合意書

一  検察官作成の捜査報告書

一  検察事務官作成の買付証明書等一袋の写(甲49)、支払利息割引料の公表金額明細(甲53)の捜査報告書

一  押収してある昭和六〇年度分法人税確定申告書一袋(平成元年押第五七一号の2)

判示第三の事実につき

一  被告人の検察官に対する平成元年五月一日付、同月三日付、同月七日付(乙9)、同月八日付(乙12)、同月九日付(乙17)供述調書

一  小山田紀一の検察官に対する平成元年四月九日付供述調書謄本、同月一二日付、同年五月三日付供述調書抄本

一  検察事務官作成の旅費交通費、抵当証券利金、土地等譲渡利益分配金の捜査報告書

一  押収してある昭和六一年度分法人税確定申告書一袋(平成元年押第五七一号の3)

(事実認定の補足説明)

弁護人は、被告会社には申告漏れや過大申告があるが、被告人の単純な経理事務上の誤算に基づくものや誤判断に基づくものがあり、それらについては被告人にはほ脱の故意がないので、同部分は否認すべきではない、また、第一の事実の練馬区中村北物件につき、被告会社は戸嶋一彦に業務委託料三〇〇〇万円を支払っており、同金額は経費として認容すべきである等主張するが、当裁判所は、前挙示の証拠により判示のとおり認定したので、以下弁護人主張部分につき、その理由を説明する。なお、前記(証拠の標目)の検甲1の検察事務官作成の総売上高の捜査報告書を甲1の報告書、検乙1の被告人の検察官に対する平成元年四月二〇日付供述調書を乙1の供述調書、押収してある昭和五九年三月期の法人税確定申告書(平成元年押第五七一号の1)を物1の申告書等略記し、昭和五九年三月期を五九年三月期、検察官作成の冒頭陳述書の内訳明細を冒、右冒頭陳述書の別紙取引概略図をチャート、弁護人及び被告人作成の平成元年八月二二日作成の意見書を弁と略記する。

1  新宿区新宿物件 冒<1> 59/3 弁1<1><4>

弁護人は、被告会社は五九年三月期に新宿区新宿一-二三-三の土地建物(チャート)の株式会社荻村興産に対する売却収入を計上していないが、被告人は五八年三月期の確定申告の際既に計上していたものと考え、五九年三月期の確定申告の際計上し損なったものであり、被告人にはほ脱の故意はなかった旨主張する。

甲1、39、40、47の報告書、乙11の供述調書等関係証拠によれば、被告人は、被告会社の実質的代表者として、昭和五七年一二月一四日新宿区新宿一-二三-三の土地建物を一四〇〇万円で入手し、昭和五八年一月二四日株式会社荻村興産(以下、荻村興産という。)に対し一七一〇万円で譲渡する契約をし、同日一七一万円の手付を受領し、同年五月九日残額一五三九万円の支払を受けた、被告会社は、五八年三月期の確定申告に際し、その不動産売買の内訳明細書に右譲渡取引を記載するも、実際所得金額、課税土地譲渡利益金額の算出上右金額を計算の対象とせず、同年八月一〇日修正申告をしたが右取引による収入を計上せず、五九年三月期の確定申告の際も不動産売買の内訳明細書に右譲渡取引を記載せず、実際所得金額、課税土地譲渡利益金額算出上計算の対象とせず、期首棚卸高に右仕入価格一四〇〇万円を計上しなかった、被告人は、これらの確定申告等に際しその書面を検討しその手続きをしたことが認められる。

収入の計上時期についてみるに、証拠上、被告会社は、棚卸資産の土地建物を譲渡する際、継続して販売契約時に収入を計上する販売主義を採用してきたとは認められない。乙4の資料三の契約書等によれば、被告会社では、譲渡契約した物件の代金全額受領と引換えに譲受人に所有権移転登記手続申請に必要な資料を引き渡し、かつ土地建物を現状有姿のまま引き渡す、それぞれ相手方が契約履行に着手するまで手付金を放棄しあるいは手付金の倍額(以下、解約金という。)を返還して契約を解除することができる旨の約定をしていることが認められる。甲41の報告書、乙5の供述調書によれば、練馬区中村北の物件(チャート4)につき、被告会社が宏和総業株式会社に譲渡する契約後、解約金を支払ってこれを解除したこと(乙5の資料八)が認められる。右のような契約の締結、解約金を支払い解除することもあったことからすれば、被告会社は、本件取引に際し売買代金を全額受領する前に物件の引渡をしているとは認められない。そうすると、被告会社の荻村興産に対する売上収入は、代金の大半である残金を取得した五八年五月九日の収入であると言うべきである。

そして、前認定の諸事実からすれば、被告人は、右売上収入と土地譲渡利益金額は、五八年三月期に計上すべきではなく、五九年三月期に計上すべきことを認識し、五八年三月期ではその収入等を計算の対象としなかったものと認められる。なお、山崎良次作成の報告書には、被告人から五八年三月期の確定申告書作成手伝いを依頼され、時間の余裕がないため関係書類を取り急ぎ作成したが、作成に当たり意図的な操作をしていない旨の記載がある。しかし、前記指摘のとおり一旦不動産売買の明細書に記載しながら、実際所得金額及び課税土地譲渡金額の計算の対象としていないことからすれば、被告人において明細書を検討の上、除外して確定申告した可能性があり、また、後記指摘のとおり仕入原価が他の物件の土地造成費として計上されている疑いに照らし、山崎の作成資料に作為があった疑いもあり、右報告書は右認定の妨げとはならない。

被告人は、弁護人主張の如く五八年三月期の確定申告の際申告していたものと考え、五九年三月期には計上することを失念した旨供述する。しかし、被告会社の五九年三月期の確定申告をする際、その期首棚卸高等を算出するため五八年三月期の確定申告の期末棚卸高等を調査するのが通常であり、その際被告人において五八年三月期には右取引の売上収入等を計上していなかったことは容易に認識しえたものである。また、被告会社は、後記3で説示するとおり五九年三月期の確定申告の際、被告会社の横浜市金沢区の土地造成費として一四〇〇万円を架空計上しているが、右一四〇〇万円は、荻村興産に譲渡した本件物件の仕入価格と対応している。これらの事実に照らし、被告人の右供述部分は信用できない。

前認定の諸事実からすれば、被告人は、五九年三月期の収入になることを知りながら、確定申告に際しほ脱の故意で右売上を除外したものと認定できる。したがって、五九年三月期の総売上高の貸方に一七一〇万円を加算し、他方期首棚卸高の借方に一四〇〇万円を加算すべきである。

2  地代家賃 冒<3> 59/3 60/3 弁1<2><3>

弁護人は、被告人は、経理事務の誤りから、五九年三月期には過大に計上し、六〇年三月期には計上を失念した旨主張する。

五九年三月期につき、甲3の報告書、物1の申告書等によれば、被告会社は、五九年三月期二五六一万五〇五〇円の収入がありながら、二五七一万七〇八八円と申告したことが認められる。被告人は、当時関係帳簿を充分整えていなかった旨供述しており、過大計上は経理事務を適正にしていなかったことに基づくものと窺われる。検察官は、過大分を減額し、被告会社及び被告人に有利な取扱をしているものであり、収入の除外、経費の水増等のほ脱の問題はない。

六〇年三月期につき、甲3の報告書、物2の申告書、被告人の供述等によれば、被告会社は、販売する目的で取得した物件を売却譲渡するまでの間一時賃貸し、家賃及び駐車場収入を得ており、六〇年三月期では二五九万九一二〇円の地代家賃収入があったことが認められる。

被告人は、小額のもので脱税を計る意思はなく、経理事務上の誤りにより地代家賃を計上し損なった旨供述する。しかし、被告会社は地代家賃収入の全額を計上しなかったもので、一部の計算漏れではない上、被告会社は、販売する目的で取得した物件を譲渡するまでの間一時賃貸していたものであるから、被告人がこのような収入の存在自体を失念すること等は通常考えられず、右供述は信用できない。

右諸事実等からすれば、ほ脱の故意で計上しなかったものと認定できる。

3  横浜市金沢区物件 冒<4><8> 各期 弁1<5><6>

弁護人は、被告人は新宿区新宿一-二三-三の土地建物につき、荻村興産に対する売上の計上を誤る一連の過程でその仕入価格の不整合に気付き、同価格を横浜市金沢区の土地の棚卸高に計上したものと窺われ、被告人には棚卸除外によるほ脱の故意はなかった旨主張する。

甲47の報告書、物1、物2、物3の申告書、乙2、11の供述調書等の関係証拠によれば、被告人は被告会社の実質代表者として昭和五七年四月一日木村繁春から横浜市金沢区長浜一六六-八、九、一〇の土地、矢ノ倉和雄から同一六六-一一ないし一九の土地を譲受け、同日その一部を北欧ハウス株式会社(以下、北欧ハウスという。)に譲渡し、同月三日再びこれらを北欧ハウスから譲受け、同日その一部を今井キヨ子、残余を有明企業に譲渡(但し、乙2の資料二の収入手数料の内訳明細書によれば、五八年三月期の確定申告時、北欧ハウスの今井らへ譲渡するのを仲介したとも記載)し、五九年三月期の確定申告の際残された横浜市金沢区長浜一六六-八、一一、一二、一三につき、被告会社の物件として期首棚卸計上し、取得費用の外、宅地造成していないのにその造成費一四〇〇万円を同八の木村分土地八四〇万円、同一一、一二、一三の矢ノ倉分土地五六〇万円を計上した(乙2の資料三)ことが認められる。

被告人は、事務処理の誤りにより一四〇〇万円を棚卸計上したと供述するが、右仕入れた物件の一部を仕入当日北欧ハウスへ譲渡し、まもなくこれを譲受け他に譲渡した経過、架空の造成費を計上した事実に照らし信用できない。

右諸事実からすれば、被告人は、ほ脱の故意で、一四〇〇万円を水増計上したものと認定できる。

4  練馬区中村北物件 冒<6> 59/3 弁4

弁護人は、被告人は、練馬区中村北一-一一-五、七、八の物件(チャート4)の取引を有利に押し進め、かつ、鈴木の経済的自立をするため、被告会社から三益に譲渡あるいは三益が買入れする仲介等をしたものであり、三益が当事者として適法に通用するものと考えていた、被告人は、その土地仕入れの過程において株式会社八州の戸嶋一彦(以下、戸嶋という。)に対し、原屋留子、内田則子の物件の地上を依頼し、利益を折半すると約し、その報酬として合計三七二五万円を支払ったものであり、検察官認定の七二五万円の外三〇〇〇万円の支払経費がある旨主張する。

まず、取引の外形的事実につき、甲5、6の報告書、甲20、23の鈴木の供述調書、甲26ないし29の戸嶋の供述調書、乙5、6の供述調書、物2の申告書等関係証拠によれば、被告会社では、農用地開発公団から取得した土地を昭和五九年四月九日三益に譲渡する旨の契約をし、同月三日原屋留子の建物の所有権とその建物敷地の賃借権、内田則子の右土地の所有権を三益が譲り受ける契約の仲介をするとともに、同月一二日晴和興業株式会社(以下、晴和興業という。)にこれらを譲渡する仲介をし、次いで同年八月九日これらに隣接する武田巌、奥山市雄、川合清一らの土地建物を三益が譲り受ける仲介をし、同月一〇日晴和興業に譲渡する仲介をした等の関係書類を整えてあること、被告人は、右物件の取引につき、戸嶋に依頼して従前の土地建物の権利者から、被告会社ないし三益に対する売却の承諾等を得るとともに、自ら晴和興業に売却する交渉をし、その為の資金調達をしたこと、鈴木は三益の代表者としてその売買交渉に実質的に関与したことはなく、買受資金等の調達等もしなかったことが認められる。

三益を関与させた理由についてみるに、右認定事実に新宿区歌舞伎町一-一二-一三の取引(チャート2)の際、被告会社は三益に譲渡する契約後まもなくした昭和五九年三月三〇日解除し、その解約金を雑損失と計上した事実を考慮すれば、被告人は、本件取引に際し、被告会社の利益を圧縮するため、公団から取得した土地を三益に譲渡し、原屋らの土地建物の買主を被告会社ではなく三益とし、次いでこれらの土地を三益が晴和興業に譲渡することにし、被告会社はそれらの仲介手続等をしたものと認定できる。

次に、戸嶋に対し右交渉等のため支払った経費についてみるに、支払った金額とその趣旨につき、戸嶋の供述調書と被告人の供述等の対立する証拠があるので、その信用性につき先に検討する。

甲26ないし29の戸嶋の供述調書によれば、戸嶋は、従前から被告人と不動産取引の関係で接触があり、昭和五九年二月ころ被告人から依頼され、原屋及び内田とその土地建物の譲受けの交渉をし、その承諾を得た後三益が譲り受ける旨の契約を締結させ、同年六月三〇日ころその報酬として取引価格の六パーセント相当の七二五万円を受け取ったが、被告人との間にその売却差益の半分を受け取る約束をしたことはなく、その金額として四〇〇〇万円とする約束をしたことはない、同年四月ころ被告人から依頼され、武田らの土地建物の譲受けの交渉をし、その承諾を得、三益が譲り受ける契約を締結させたが、被告人からは利益が出なかったことを理由にその報酬を受け取ることができなかった、戸嶋は同年九月下旬か一〇月上旬ころ、被告人に二〇〇万円の融資方を依頼した際、合計二〇〇〇万円の領収書を切ってくれれば二〇〇万円の謝礼を出すと言われ、その旨の領収書を作成し、二〇〇万円を得た、同年一二月ころ、被告人に融資方を依頼した際、業務委託に関する合意書、領収書の作成を依頼され、前に作成した領収書の返還を受け新たに合計六九〇〇万円の領収書を作成し被告人の準備した合意書に署名する等し、その礼金として八〇〇万円を得た、右の期間中被告人から依頼され株式会社八州名義の普通預金通帳を被告人に預ける等し、被告人の指示を得て払戻請求書等を作成した旨の供述記載がある。

右の供述記載中、被告人との従前の接触部分は、戸嶋作成の手帳の記載(甲26資料一)と符号し、原屋らの交渉部分については、原屋らの売渡承諾書(甲27の資料一、二)と符号し、その契約締結部分は、契約書(同資料三、四)と符号し、武田らの土地建物の譲受けの契約交渉部分は、買受承諾書(甲28の資料二)、契約締結部分はその契約書(資料三)と符号し、七二五万円の受領部分は、当初昭和五九年六月三〇日付、次いで同年七月一七日付と訂正された仲介手数料七一〇万円、境界立会交渉金一五万円の記載のある領収書(甲27の資料七)、確定申告書の損失金処理計算書及び収入手数料の内訳明細書(同資料八)と符号し、合計二〇〇〇万円の領収書作成部分は、手帳の記載(甲28の資料四)、領収書の耳(同資料五)と符号し、業務委託の契約書作成と領収書の返還と再度の作成部分は、昭和五九年七月一六日の付近に一一日に変えと付記された領収書

(同資料六)、業務委託の契約書と領収書(同資料八)、領収書の耳(同資料九)、確認書等(同一〇)と符号している。なお、戸嶋は、右のとおり実態と異なる領収書、契約書等の作成し、右供述記載によれば、この外にも不明朗な事にも関与していることが窮われるが、前記領収書、契約書等は被告人との間で交わされたものであり、戸嶋の発案で被告人の意思に反して作成されたものではない。右のとおり事実経過の供述記載部分は、それぞれの関係証拠と符合し、全体として一貫しており、矛盾点はない。そして、戸嶋が原屋らの土地建物の譲渡の報酬として七二五万円を受け取った旨の供述記載部分は、被告人が七二五万円の領収書を受け取った事実と対応し、被告人がメモ書きした土地略図中の記載(乙5の供述調書資料一六)、封筒の記載(甲49の報告書)と対応している。被告人との間に利益折半の約定はなかった旨の記載は、被告人が受け取った七二五万円の領収書には、仲介手数料、境界立会交渉金とのみ記載されているだけで、利益折半の一部とか四〇〇〇万円の内金等の記載がないことに対応している。これら諸点を考慮すると、戸嶋の右供述記載の大要に、特別疑問を持たせる点は窺われず、信用することができる。なお、甲29の戸嶋の供述調書には、戸嶋は昭和六〇年一月四日定期領金証書の受領欄に押印等し、被告人の解約による払戻しに協力した旨の供述記載があるが、弁護人作成の報告書(弁護人証拠請求番号3)、被告人作成の電話聴取書(同番号4)によれば、昭和五九年一二月二九日には払戻しされていることが認められる。右戸嶋の供述記載は、日時の点で相違しているが、被告人が元金と利息を受領し、戸嶋はその払戻しに協力した点は符号しており、これをもって、戸嶋の前記事実経過中の日時の記憶が不確かであるとはいえず、その内容の信用性が損なわれるとはいえない。

被告人の供述記載、供述をみるに、乙5、6の供述調書によれば、被告人は捜査段階では、昭和五九年二月二五日ころ、原屋方を訪ね買受けの挨拶をし、戸嶋に対し地上げができそうな感触であると述べ、その交渉を依頼した、戸嶋が交渉して売渡承諾書を得てきたが、その二、三日前地上げが成功したら利益を折半する約束をした、そして原屋らから三益が買い受ける契約を締結し、そのころ隣接する武田らの土地建物をも地上げする話となり、戸嶋にその交渉を依頼した、原屋らの物件を三益が晴和興業に譲渡するとその取引により粗利益九〇〇〇万円が見込まれたので、同年四月一二日ころ戸嶋の取り分を四〇〇〇万円と合意し、そのころ戸嶋に二〇〇〇万円を交付し、同年七月中旬ころ一〇〇〇万円を支払ったが、七二五万円という金額の金を交付したことはない、戸嶋が武田らから譲渡の承諾を得てこれらを三益が買い受ける契約を締結し、三益が晴和興業に譲渡する契約を締結したが、その取引関係では利益が出なかったため、戸嶋に武田らから貰ってもらうよう頼み、金銭を支払わないことにした、同年一〇月五日戸嶋に対し二〇〇万円を貸し付けた、同年一二月裏金を作るため、戸嶋に依頼し業務委託の契約書、領収書を作成し、三九〇〇万円を支払い同金額の返還を受けるとともに、そのころ残額の一〇〇〇万円を支払った旨の供述記載があり、公判廷では、原屋らの土地建物の交渉は地上げであり、通常の不動産仲介とは異なると強調するとともに、利益折半の約定に従い四月ころに二〇〇〇万円、七月ころに七二五万円を支払い、同年一一月ころ被告会社に対する税務調査の際残金の一〇〇〇万円を支払うとメモ書き等し、同年一二月ころ一〇〇〇万円を支払った旨供述した。

被告人の右供述記載、供述には、次の疑問点がある。まず、被告人は、捜査段階では相当具体的な資料を示されながら七二五万円の授受を否定し、公判廷では七二五万円を受け取ったと供述を変更したが、その変更理由につき、被告人から納得させる説明はない。次に、その内容についてみるに、第一に、被告人は、昭和五九年四月ころ二〇〇〇万円を交付した旨供述するが、戸嶋が受け取ったことを的確に示す領収書等の物的証拠はない。当時戸嶋から領収書等受取を証明する書面を入手することが困難であったとの事情も証拠上窺われない。かえって被告人は戸嶋から実態にそわない領収書の作成を依頼して入手している。被告人は後に七二五万円の領収書を受け取っているが、その際その旨の領収の記載を得ることも可能であったと窺われる。また、被告会社及び三益の内部書類上、当時二〇〇〇万円の支払をしたことを記入したことを示す関係帳簿はなく、取引経過中メモ書きしたと思われる前記封筒裏面の記載(甲49の報告書)や、土地略図の記載(乙5の資料一六)にも、その支払を窺わせる部分がない。なお、乙5の資料一八の三益の普通預金通帳の写しに書き入れのある書面中、昭和五九年四月五日の支払欄一〇〇〇万円の横に戸嶋への支払を窺わせる記載があるが、他方甲25の鈴木の供述調書の同じ普通預金通帳の写しに書き入れのある書面の同欄には、原屋、内田への小切手支払の記載があり、先の記載部分をもってその支払に相応する証拠とは解されない。第二に、被告人は、捜査段階では昭和五九年七月ころ一〇〇〇万円支払った旨供述したが、これを的確に示す戸嶋の領収書、被告会社ないし三益の関係帳簿、メモ書等の証拠はない。かえって被告人が記入したと認められる土地略図中の五〇〇万円と一二〇万円を抹消し七二五万トシマと書き改めた記載(甲五の資料一六)、被告人が作成したと認められる封筒裏面の記載中の七二五万円の記載(甲49の報告書)、昭和五九年一一月ころ三益の税務調査に対処しようとした際作成したと認められる三益の経理書類中に仲介手数料七二五万円の記載(5の資料一四)がある。また、被告人は公判廷で仲介料の一部七二五万円を支払った旨供述するが、前記七二五万円の領収書には仲介手数料、境界立会交渉金の記載があるものの、利益分配金の一部あるいは昭和五九年四月の二〇〇〇万円の支払に次ぐ二回目の支払と窺われる記載はない。第三に、被告人は、昭和五九年一二月ころ原屋らの物件交渉の報酬の残金として一〇〇〇万円支払った旨供述するが、合計四〇〇〇万円を支払う約束ならば、同年七月の支払額が一〇〇〇万円とすれば残額は一〇〇〇万円となるものの、支払金額が七二五万円とすれば、残額は一二七五万円となり、金額は一致しない。そして利益分配金の未払いがあるとすれば、その残額と支払方法をめぐり戸嶋と交渉があるとも予想できる上、前記一〇月五日二〇〇万円を貸し付けたとすれば、その貸付金との相殺等の交渉が予想されるが、そのような事情は窺われない。これらの疑問点を考慮すると、被告人の供述記載、公判廷の供述は、信用できない。

信用できる前記戸嶋の供述調書によれば、被告人の交付した仲介手数料は、七二五万円であり、他の二回にわたり支払った合計一〇〇〇万円は、被告会社の所得隠匿工作の謝礼として交付したものであり、被告会社の経費とはならない。

なお、鈴木の供述録取書(弁護人請求番号1)には、被告人は戸嶋に対し原屋、内田の土地建物の地上げを依頼した旨の部分があるが、甲23の鈴木の供述調書によれば、鈴木は、被告人が戸嶋に買受け交渉の依頼をし、その交渉の報酬額ないし利益折半の約束とその金額合意を協議する場に立ち会ったものではないことが認められ、右証拠をもって右認定の妨げとはならない。

5  旅費交通費 冒<9> 61/3 弁1<11>

弁護人は、被告人は六一年三月期被告会社の商売繁盛を願い新潟県長岡市所在の宝徳稲荷大社に参拝したが、その交通費等は被告会社の必要経費となる、仮に必要経費とならないとしても、被告人は必要経費となるものと考えて計上したものであり、ほ脱の故意はなかった旨主張する。

甲9の報告書、被告人の供述等によれば、被告人は、昭和六〇年四月一日から昭和六一年三月二八日までの間、多数回にわたり参拝し、被告会社の関係帳簿には同一日に二回、あるいは参拝して帰京した当日再び参拝に赴く等して合計六四回参拝に行き、東京から長岡までの鉄道交通費、長岡駅から神社までのタクシー代、宿泊した宿泊代の合計三三四万九六三二円を支払したと記帳したことが認められる。

会社代表者が、会社の商売繁盛を祈念し、参拝等することは理解できるが、被告人の場合右記帳の回数等からすると参拝回数は著しく多く、被告人の個人的宗教観に基づき参拝したものと認められる。したがって、その交通費と宿泊費は、被告人個人の為に支出したものと認定判断され、未だ被告会社の経費とは認められない。

被告人は、被告会社の経費となると考えていた旨供述する。しかし、被告人自ら被告会社の経理事務に関与し、相応の経理知識を持っていることに照らし、多数回の参拝費用全額とその宿泊費を被告会社の経費と考えていたか疑問である。また、甲50の報告書、甲21の鈴木の供述調書によれば、鈴木は、その住居費、水道光熱費等を三益の経費として相当額計上し、被告人はその経費処理に関与していたことがあることが認められ、被告人自身被告会社の経費と被告人の支払を明確に区別して計上したか疑問である。これらによれば、被告人の供述は信用できない。

右認定の事実等によれば、被告人は、被告会社の経費とならないと知りながら、ほ脱の故意で計上したものと認められる。

6  支払手数料 冒<10> 59/3、60/3 弁1<7><8>

弁護人は、被告人は五九年三月期、六〇年三月期いずれも経理事務の誤りにより支払手数料の一部を計上漏れ等したものであり、被告人にはほ脱の故意はなかった旨主張する。

甲10の報告書等関係証拠によれば、被告会社は、五九年三月期、支払手数料勘定に東京相互銀行に対する振込手数料七万円を計上せず、諸星商事に対する賃借の敷金一五万六〇〇〇円を計上し、六〇年三月期には同勘定から右敷金の解約戻金を減額していることが認められる。

検察官が、右振込手数料額を認容したことに問題はない。

次に、交付した敷金は、被告会社にとり預け金であって、支払金ではなく、賃貸借の解除によりその返還を受けた際、現金勘定となるものである。

被告人は、経理事務処理上の誤った判断により、右敷金の交付、戻入を支払手数料に計上した等と供述する。しかし、被告人は、宅地建物取引に相当期間従事し、右返還された敷金を戻入していることからすれば、敷金の税法上の取扱を知っていたものと窺えるから、右供述は信用できない。

右諸事実からすれば、被告人は、五九年三月期に単に誤って交付した敷金を支払手数料に計上したとは言えず、他と同様ほ脱の故意があったものと認定できる。

7  受取利息 冒11 59/3 60/3 弁1<9><10>

弁護人は、被告会社の受取利息中、五九年三月期分二一万五七八三円、六〇年三月期分九七万〇七三九円は、被告会社や実在する個人名の預金の受取利息であり、被告人にはこれらの預金の受取利息を除外する故意はなく、経理事務処理の誤りで計上し損なったものである旨主張する。

甲11の報告書等関係証拠によれば、被告人は、被告会社の実質的代表者として銀行に対し、被告会社名や被告人名の外、仮名等で預金し、被告会社はその受取利息を得ていたこと、被告人は、確定申告に際し、五九年三月期には受取利息一五九万五九四三円に対し一〇万四三八〇円、六〇年三月期には同二三四万五〇二六円に対し七六万二二二七円を計上したことが認められる。

被告人は、取引銀行が被告会社の外個人名義の預金を欲しがったため預金したものであり、所得隠しのためこれらの預金をしたものではなく、これら被告会社及び実在個人名分に対応する右受取利息分は、経理事務処理の誤りで漏れたものである旨供述する。しかし、被告人は、被告会社の実質上の代表者として被告会社の資金繰りをし、仮名の外借名口座を用いる等して被告会社に帰属する預金の管理等をしてきたものであり、多数の名義を使用するようになった後も、これらの存在とその結果支払を受ける利息の存在を認識できえたものである。そして、被告人は、その一部を申告したが、大半は計上せず、その計上の選別方法も判然としない。そうすると、受取利息の内右主張部分のみほ脱する故意がなかったとの供述は信用できない。

右事実からすると、被告人には、ほ脱の故意が認められる。なお、被告人が預金利息の存在を知りながら、確定申告の際ほ脱の故意でその一部のみを計算の対象としたことは不正の行為となる。

8  有価証券売却益 冒<12> 59/3 弁1<11>

弁護人は、被告人は五九年三月期経理事務上の誤りにより計上漏れしたものである旨主張する。

甲12の報告書等の関係証拠によれば、被告人は、被告会社の資金を利用して株式売買をし、五九年三月期には二〇二万七六四三円の売買益があったことが認められる。

被告人は、計上漏れであった旨供述するが、被告人は、被告会社の資金を利用し株式売買をしていたものであり、右供述は信用できない。なお、被告人は、右有価証券売却益は、被告人個人のものであった等と供述するが、甲46の検査てん末書抄本に照らし、信用できない。

右事実によれば、被告人にはほ脱の故意が認められる。

9  抵当証券利金 冒13 61/3 弁1<12>

弁護人は、被告人は、六一年三月期経理事務上の誤りにより計上漏れしたものである旨主張する。

甲13の報告書、甲45、46、47の各検査てん末書抄本等によれば、被告人は、被告会社の実質的代表者あるいは代表者として被告会社の資金を利用して昭和六〇年六月一二日三〇〇万円の抵当証券を買い、六一年三月期内で二〇万七〇〇〇円の利金を得たことが認められる。

被告人は、経理事務の誤りにより計上漏れした等供述するが、被告人が資金を手当し買受けしたこと、当時コンピューターを利用し経理を管理しようとしていたことに照らし、信用できない。なお、被告人は、右抵当証券利金は被告人のものと考えていた旨供述するが、甲44、45の検査てん末書抄本に照らし信用できない。

右諸事実によれば、被告人は、ほ脱の故意で計上しなかったものと認定できる。

10  支払利息割引料 冒<16> 各期 弁1<15>

弁護人は、被告人は五九年、六〇年、六一年の各三月期、いずれも経理事務の誤りにより、過少に計上したものであり、被告人にはほ脱の故意はなかった旨主張する。

甲48、15、53の報告書、物1、2、3の申告書等関係証拠によれば、被告人は、被告会社の実質的代表者あるいは代表者として東京相互銀行代々木八幡支店、同新宿西口支店等から借入し、その借入利息を支払ってきたこと、被告人は、五九年三月期には三九〇万一三〇五円を計上(同期間の実際支払額五五一万六八四二円)、六〇年三月期には右銀行への支払金分七六四万三五三三円(同三七八万三二四二円)と三益からの借入金の利息の支払分二四一万二一五一円の合計一〇〇五万五六八四円を計上、六一年三月期には銀行への支払分合計一一九六万一一五一円を計上したことが認められる。

支払利息は、各期末までの計算上の支払うべき利息合計額を計上すべきであり、検察官の甲48の報告書の算出額が正当金額である。

被告人は、弁護人主張のとおり供述する。しかし、五九年三月期の計上金額は、被告会社の銀行に支払った利息金額の実際合計額を下回っている。被告人は、当時関係帳簿を整えていなかった旨供述しているものの、当時被告会社に帰属する預金の受取利息を受け取り管理していたことに照らし、単純に計算漏れがあったためだけであるとは窺えない。六〇年三月期の計上額中、銀行に対する利息支払分は、実際支払額より相当高額に計上されている。三益に対する利息支払分合計を計上しているが、被告人は、不動産取引上格別必要がないのに、被告会社の利益を減縮するため三益を利用したこと、三益との金銭の移動はその取引の外形を補うためなされたものがあることからすれば、右三益に対する支払分を認容することはできない。六一年三月期の計上額は、銀行への支払分を正確に計算計上したものであるが、二期にまたがる借入の場合、支払金の全額をその支払日時に対応する期分の支払とすることは不正確であり、被告人は、確定申告に際し利息の再計算をした事情も窺われない。右事実に照らし、被告人の供述は信用できない。

右諸事実によれば、被告人は、銀行に対する支払利息をいずれもほ脱の故意で過大に計上したものと認定できる。

11  その他

なお、渋谷区千駄ケ谷の物件(チャート5)につき、被告会社は、売主株式会社剛栄産業に対する売上金のほか、介在したことのない株式会社東映ハウジングに対し仲介料一一〇〇万円を支払った経理処理をしている。被告人は、株式会社剛栄産業の関係者の指示によりこれに協力したものに過ぎず、実際には同金額を加算した金額で売却している旨供述する。

被告会社が仲介料を計上したのは実態にあわず、証拠上右取扱をする外なかったとの特別の事情は窺われないから、右行為は被告会社の所得把握を困難にする事前の隠匿行為というべきである。なお、検察官は、売買代金が一一〇〇万円少なく計上されているので、総仕入高に同金額を認容計上(冒<5>)しており、その結果本件取引のみを考慮すれば、被告会社の経理処理によっても実際所得金額及び課税土地譲渡利益金額の計算上異動は生じないが、それをもって右判断に影響はない。

その他、弁護人が平成元年六月一五日付意見書等で指摘の諸点を検討しても、被告人が被告会社の業務に関し、ほ脱の故意により事前の不正工作等をし、判示のとおり法人税のほ脱をしたものと認定できる。

(法令の適用)

罰条

被告会社 各法人税法一六四条一項、一五九条一項、判示第二、第三につき情状により一五九条二項

被告人 各法人税法一五九条一項、判示第二、第三につき情状により一五九条二項

刑種の選択

被告人 各懲役刑と罰金刑の併科

併合加重

被告会社 刑法四五条前段、四八条二項

被告人 刑法四五条前段、懲役刑につき四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第三の罪の刑に加重)

罰金刑につき四八条二項

未決算入 被告人 刑法二一条

労役場留置 被告人 刑法一八条

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 被告会社 罰金二〇〇〇万円 被告人 懲役一年六月及び罰金二〇〇〇万円)

(裁判官 柴田秀樹)

別紙1

修正損益計算書

自 昭和58年4月1日

至 昭和59年3月31日

三晃商事株式会社

<省略>

別紙2

脱税額計算書

自 昭和58年4月1日

至 昭和59年3月31日

三晃商事株式会社

<省略>

別紙3

修正損益計算書

自 昭和59年4月1日

至 昭和60年3月31日

三晃商事株式会社

<省略>

別紙4

脱税額計算書

自 昭和59年4月1日

至 昭和60年3月31日

三晃商事株式会社

<省略>

別紙5

修正損益計算書

自 昭和60年4月1日

至 昭和61年3月31日

三晃商事株式会社

<省略>

別紙6

脱税額計算書

自 昭和60年4月1日

至 昭和61年3月31日

三晃商事株式会社

<省略>

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